20代から30代にかけて、私は10年間療養生活を送っていました。
大学院を中退し、一日に何度も薬を飲み、ベッドで横になる日々。
そんな療養生活の初めのころに見た夢が、今も心に残っています。
夢の中で私は、必死に何かから逃げていました。
森の中の道なき道。
スカートは泥だらけ。
必死にただひたすら草木をかき分けて逃げていました。
私を追っているものが間近に迫ってきました。
醜いたくさんの小人たち。
ニタニタと笑いながら大勢の小人たちが私に向かってきます。
「もうダメだ」
そう思ったとき、地面にあいた小さな穴に私は落ちました。
最初は物凄いスピードで落ちていましたが、次第にゆっくりになり、落ちている縦穴が広くなっていきます。
ゆっくり落ちながら辺りを見回すと、穴の壁はネズミ色の石。
地上の騒々しさとは違い、音もなくシンと静まり返った穴の中。
しばらく落ちていると穴の底が見えてきました。
石畳の上に置かれた古い木製のテーブルと椅子。
椅子はテーブルをはさんで2脚置かれていました。
私はゆっくりと椅子に座るように着地。
テーブルの向かいには1人の大人の男性。
私を見ると静かに微笑み
「大丈夫ですよ」
そこで突然、夢は終わりました。
その夢を見たころ
理想の自分とは大きくかけ離れた「病気の自分」を受け入れられず、私はとても苦しんでいました。
時には病に倒れた自分を責め、「これが現実ならば死んでしまった方がいい」と考えていた記憶があります。
病気が落ち着き、結婚して2年ほど経ったとき、
今の生活はあの穴の中のようだと思いました。
世間の騒々しさから離れた倉庫のわが家。
聞こえるのは雨と風の音、鳥と虫の声。
そして、夫のブーさんはいつも ありのままの私を受け入れてくれ、「大丈夫だよ」と安心感を与えてくれます。
ふと、療養中の自分に声をかけたくなりました。
「静かで穏やかな生活と優しいパートナーが待っているから、死なないで」
あの夢は、未来の自分からのメッセージだったのかもしれません。