「しゃしゃてん…」
実家に再び お琴の音色が響くようになりました。
若いころ、お琴を習っていた母。
私が小学生のころまでは、自宅でときどき弾いていました。
その後、祖父母の介護で忙しくなり、お琴は部屋の隅でホコリをかぶったままに。
祖父母を見送っても弾くことはなく、母のお琴はもう聴けないのだと、少し寂しく思っていました。
昨年の秋『お琴の糸を張り替えて、また弾き始めたの』と、母からうれしい知らせ。
帰省した際に、懐かしい母のお琴を聴かせてもらいました。
目次
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まずは、調絃(ちょうげん)
お琴、正しくは お箏。
柱(じ)と呼ばれる駒の位置を調節して、音の高さを合わせます。
エプロン姿で『結構、力が必要なのよね』と糸をひっぱり、柱を立てる母。
音程を合わせるのは記憶と耳が頼り。
何度も音を確認しながら「平調子」に調絃します。
不思議なことにお箏を習ったことがない私も、もっとも基本的な平調子の音階だけは耳が憶えていたようで、『もう少し高い方がいいね』などと撮影しながら話していました。
13本の糸すべてに柱を立て終え、音程を再確認。
『とりあえず、こんな感じかな』と爪を付け始めました。
2つの流派 生田流と山田流
お箏の流派には、主に生田流(いくたりゅう)と山田流(やまだりゅう)があります。
外見上の主な違いは「爪の形」と「構える姿勢」です。
- 生田流:角爪。爪の角を有効に使うためお箏に対し左斜め約45度に構える
- 山田流:丸爪。正面に構える
『現代音楽を弾いたりするのは生田流が多いね。50年前も教室は生田が多かったよ』
母は近所の先生が山田流だったから、という理由で今でも山田流です。
六段の調(ろくだんのしらべ)
BGMでもよく使われる、八橋検校作曲の「六段の調」 。
母は昨年、一番好きなこの曲で練習を再開しました。
『今はここまでしか弾けないなぁ……』と途中まで。
楽譜と動画(YouTube)を見て練習し、最後まで弾けるようになるのが現在の目標です。
山田流の演奏動画 ⇒ 筝曲 六段の調 増渕陽子
音程の微調整
『何かちょっと気になる…』と 、音程の再確認。
うんしょ、うんしょと柱の位置を微調整しました。
さくら変奏曲
宮城道雄作曲の「さくら変奏曲」を少し弾いて、音程の確認をしながら指慣らし。
変奏曲のもととなった「さくら」は、幼いころ唯一母に教えてもらった曲です。
七七八 七七八 七八九八七ころりん…
30年以上経った今でも憶えていることに、自分でも驚きました。
生田流4名による演奏動画 ⇒ Japanese Koto さくら変奏曲/Sakura hensokyoku
乱輪舌(みだれりんぜつ)
略して「みだれ」と呼ばれる八橋検校作曲の「乱輪舌」。
お箏にかかわる人であれば 知らない人はいない、名曲中の名曲です。
速く激しく複雑で、弾きこなすのがとても難しいそうです。
『最初は六段の調に似ていると思ったけど、難しくて大変なんだよ』。
とても長い曲。
私は楽譜を見るだけで気絶しそう。
母の最終目標は「乱輪舌」を再び弾けるようになることです。
『まだまだ先は長いなぁ…』
生田流の演奏動画 ⇒ みだれ(作曲 八橋検校)
この動画を見て『わぁ、すごい!』と母は目を輝かせていました。
お箏で若返り?
お箏を再び弾くようになって、母は長い間忘れていた若いころの出来事を思い出しました。
お茶席や市民会館で演奏したこと、尺八とともに「春の海」を演奏したこと…。
YouTubeでお箏の動画を見ては先生と練習した曲を思い出したり、指の動かし方をチェックしたりと、とても楽しそうです。
お盆に帰省した時よりも生き生きとしていて、若返ったようでした。
できるだけ長く母がお箏を楽しめるよう、サポートしていけたらと思います。