湯西川温泉で 長い間親しまれてきた共同浴場「薬師の湯」。
残念なことに、2019年4月から閉鎖となりました。
公衆浴場をご利用の皆様へ
温泉組合長 〇〇〇
お知らせ
諸事情により、公衆浴場は平成31年4月1日から利用できなくなります。
なお、再開は未定です。
皆様のご理解とご協力をお願いいたします。
これまで続けてくださったことに感謝し、在りし日の薬師の湯 と 私たち夫婦の思い出を書いていきます。
最終更新:2020年2月3日
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目次
湯西川温泉「薬師の湯」の場所
湯西川(ゆにしがわ)温泉は、栃木県日光市の山奥にあります。
標高約750m、福島県との県境近く。
平家の落人伝説が残る、とても静かな山里です。
その温泉街の中心部、湯西川のほとりに共同浴場「薬師の湯」はありました。
そこだけ時が止まったような古い湯屋。
湯前橋(ゆぜんばし)のたもと、周りより一段低い場所でひっそりとお湯をたたえていました。
閉鎖直前、早春の「薬師の湯」
2019年3月、閉鎖直前の「薬師の湯」を撮影しました。
周辺の様子もあわせてご紹介いたします。
温泉街のメイン通り「県道249号」黒部西川線。
例年より気温が高いため雪が少なく、雪解けも早いようでした。
「はたご松屋」を左に曲がります。
細い路地の奥に「湯前橋」が見えます。
橋の手前にある「金井旅館」。
こちらが共同浴場「薬師の湯」と川の向こう岸にある露天風呂「薬研の湯」を管理されていると聞きました。
橋のたもとで左に曲がります。
小さな小屋と石灯籠に挟まれた階段の下に、公衆浴場「薬師の湯」があります。
下まで降りて振り返ると、こんな感じです。
この二つの小屋は何でしょう。
「栃木県登録源泉」の標石があるので源泉小屋ですね。
中が気になります。
「薬師の湯」の前を流れる湯西川と湯前橋。
川の向こう岸には、岩の上に混浴露天風呂「薬研(やげん)の湯」が見えます。
こちらは「薬研の湯」から見た「薬師の湯」。
川下に「本家伴久」の氷瀑がちらりと見えました。
入り口の脇には「入浴の心得」が掲示されています。
共同浴場入浴の心得
一、浴場内はお互いに清潔にいたしましょう
一、お酒等飲んでお湯に入らないで下さい
一、入浴中は他の人に迷惑をかけないで下さい
一、浴場内での洗濯は堅くお断りいたします
一、部落民の入浴中は他の方はご遠慮ください
右の心得を良く守り楽しく皆さんで入浴できるよう、ご協力をお願い申し上げます
湯西川温泉組合
各位
この「部落」は、地区・集落を意味すると思われます。
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建物内の様子
引き戸を開けると目の前に脱衣所、左奥に浴室があります。
脱衣所と浴室が一体となっている昔の共同浴場。
混浴です。
近くの温泉に「浴室は一緒、脱衣所は男女別」という共同浴場がありましたが、ここはすべてオープン。
トイレはありません。
共同浴場ご利用の方へお願い
この共同浴場は川辺にあり、強雨や台風などで増水のたびに、戸、羽目、の取り外し、取り付け、浴場内の清掃など組合員で行っております。
また通常も週二回浴室、浴槽の清掃を行っております。
その他維持管理費も組合員に相当な負担になっております。
誠に恐れ入りますが組合員以外の方の入浴は
一回につき二百円以上のご寄付を下さるようにお願いします。
湯銭箱は脱衣場にあります。
湯西川温泉組合
湯銭箱はこちらです。
岩をくり抜いたような浴槽は小さめなので、ゆったり入れるのは二人まで。
源泉小屋から黒いホースで引かれているお湯は、少し熱めです。
目隠しのために、ガラス窓の一部がスプレーで白く塗られています。
泉質について
脱衣所の「お願い」の横に「温泉分析書」が貼られていました。
調査及び試験年月日は、平成9年12月19日(1997年)。
湧出地は、2006年に日光市へ合併されて廃止となった「栗山村」と書かれています。
温泉分析書から一部抜粋。
- 泉質:アルカリ性単純温泉(アルカリ性低張性高温泉)
- 泉温:51.6℃(気温4.0℃)
- pH値:9.3
- 無色澄明、無味でわずかに硫化水素臭を有する。
- 湧出量:470.9 l/min(動力揚湯)
- 成分総計:0.198 g/k
アルカリ性温泉なのでお湯がやわらかく、古い角質を除去する「クレンジング効果」があるので 肌がすべすべになります。
また、浸透圧が低い「低張性」のため、身体にやさしく湯あたりしづらいです。
画像から読み取れなかった箇所を 近くの宿にある分析書で確認すると
- メタケイ酸:43.9mg
こちらも大体同じでしょう。
保湿効果のある美肌成分がしっかり含まれています。
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真冬、夜の「薬師の湯」
2018年2月、かまくら祭の帰りに「薬師の湯」へ寄りました。
とても寒く、あたりは雪で真っ白でしたが、浴室の屋根は温泉の熱で雪が積もっていません。
あたたかそうな湯気がもくもく。
源泉小屋の屋根には雪がなく、脱衣所と石灯籠には雪の綿帽子。
こんばんは。
ん~ 中はあたたかい。
ふんわりと湯気が白く立ち込めていました。
夫と「薬師の湯」の思い出
夫は湯西川温泉が大好きで、独身時代から度々訪れています。
初めて訪れたのは、2006年に「道の駅 湯西川」が完成する前。
道の駅あたりにプレハブが建っていた、と言うので2004~2005年あたりでしょう。
そのころ、夫は何度か「薬師の湯」に入ったそうです。
ある時『こんにちは』と戸を開けると、浴槽に一人のおばあさんがいらっしゃいました。
あっ……と戸惑う夫、まったく動じないおばあさん。
低めの声で勢いよく『あら、お兄さん!いいわよ!』と一言。
夫はそのパワーに押され、『ど、どうも失礼しました』と入浴をあきらめたそうです。
私はこの話が好きで、「薬師の湯」 を見るたび、そのおばあさんの一言を思い出していました。
ありがとう。さようなら
地域の方と温泉好きに愛された「薬師の湯」。
閉鎖されたのは少し寂しいですが、管理が大変なのかもしれません。
温泉組合の皆様、長い間きれいに管理してくださって、ありがとうございました。
追記:2019年台風19号の爪痕
閉鎖の半年後、台風19号の大雨により、薬師の湯はひどい損傷を受けました。
四方の壁と窓がなく、脱衣所の棚も見当たりません。
以前あった利用者へのお願いに「……強雨や台風などで増水のたびに、戸、羽目、の取り外し、取り付け……」と書かれていたので、もしかしたら台風が来る前に外されていたのかもしれません。
中は土砂で埋まり、一段低かった浴槽が脱衣所と同じ高さになっています。
割れた出入り口のガラス戸、宙に浮く柱。
当時、湯西川は濁流となり、すさまじい勢いで流れていたのでしょう。
今は青く美しい湯西川。
薬師の湯、これで本当にお別れですね。
さようなら、ありがとう。
追記:2020年1月
2020年1月、薬師の湯は土台だけになっていました。